連載・特集

2019.2.20みすず野

 書店の文庫本コーナーでいま、志賀直哉の小説を見かけることはほとんどないが、愛用の『歳時記365日』(三省堂)の2月20日には、白樺派の作家・志賀直哉誕生(明治16年、1883年)と記されている。同人誌『白樺』の両輪は、武者小路実篤と志賀直哉である◆『白樺』を創刊した明治43(1910)年、直哉は「網走まで」などを発表しつつ、東京の家で父と激しく対立し、実篤の掲げる人道主義にもついてゆけず、2年後尾道に移り、その後も松江、京都、我孫子、奈良など静かな場所を求めて転居を繰り返した。短編「城の崎にて」は大正6(1917)年、34歳のときの作◆その4年前、東京山手線の電車に跳ね飛ばされて大けがを負い、「後養生」のために城崎温泉(現在の兵庫県豊岡市)に3週間滞在、実際に起きた出来事を透徹した観察眼で描いた。直哉の死生観を表した代表作の一つで、城崎温泉の名も知らしめた◆この城崎温泉を冬、訪ねたことがある。規模といい、情緒といい「山陰の名湯」にふさわしい温泉街で、浴衣姿で外湯をめぐる、老若男女であふれていた。当地の浅間温泉もそうありたいが。