連載・特集

2019.2.2みすず野

 内田百けんは「春の海」の宮城道雄と仲が良かった。自らもたしなんだ箏への愛着と宮城との交流が佳作「柳検校の小閑」を生み、宮城の随想には百けんの愉快な人柄がつづられている◆百けんの没後に著作権を管理した中村武志は『小説サラリーマン目白三平』などで知られる。中村のふるさと塩尻の市立図書館で初めてその著作に接した。鉄道紀行の嚆矢とされる百けんの『阿房列車』で旅のお供をする「ヒマラヤ山系」の上司は、出発を毎回ホームで見送ることから「見送亭夢袋」とあだ名をもらう。その人だった◆片丘生まれで旧制松本中学校(現・松本深志高校)を本人いわく「ビリから2番目」で卒業し、国鉄に定年まで勤める。百けんに師事して物書きとの二足のわらじを履き、勤め人の生活を描いた「目白三平」は笠智衆主演で映画化もされた◆独特のユーモアと風刺の効いた随筆で人気の百けんだが、『冥途』『東京日記』など幻想的な作品で真骨頂を見せ、ファンの好みも二分されるようだ。「柳検校」が弟子の女教師に寄せるほのかな思いの結末が切ない。未読の人がいたらぜひとも。生誕から今年は百けん130年、中村110年。

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