連載・特集

2019.1.25みすず野

 江戸時代の日本人が持っていたであろう、けなげさや潔さ、現代人にも通じる人生の哀歓を、美しい日本語と見事な物語の展開で描いた時代小説家・藤沢周平が平成9(1997)年、69歳の生涯を閉じて22年がたつ◆文芸評論家の高橋敏夫さんが『藤沢周平人生の愉しみ』(三笠書房)で、藤沢は「つねに生きる愉しみとともに」あり、それは自然に寄り添い、過ぎ行く季節を愛おしみ、故郷を思い、分け隔てない人々との出会いを喜ぶものであった、と記している。作品、エッセーからそれが読み取れるというのだ◆藤沢の故郷は山形県鶴岡である。東京に住んで小説を書き続けるが、晩年、故郷というか東北に対する意識が、「鮭の母川回帰」のごとく強まり、「うかうかすると東北を見ないで終わってしまう」とまで述べている。故郷から遠く離れて暮らす人には、痛いほどわかる感覚かもしれない◆「人生の愉しみ」を味わいながら、藤沢作品にもう一度親しんでみたい。いや、藤沢作品に親しみ直すことで、人生の愉しみの一つを得たい。『蝉しぐれ』『用心棒日月抄』『海鳴り』『風の果て』...。短編も挙げれば切りがない。