連載・特集

2018.12.5みすず野

 「喪中につき、年末年始のごあいさつをご遠慮申し上げます」。年賀欠礼のはがきがぽつり、ぽつり届けられる時節になった。そうだった、ご葬儀に参列させていただいたと思い出したり、あら、ご親族を亡くされていたのか、と初めて知ったりする◆ことし亡くなった有名人の一人に、俳優の加藤剛さんがいる。6月に80年の生涯を閉じられた。典型的な二枚目だったが、加藤さんを知る松本市内の男性の話だと、偉ぶったところはみじんもなく、優しくて、細やかな気遣いをされる方だったという。加藤さんの映画の代表作は、熊井啓監督の「忍ぶ川」、野村芳太郎監督の「砂の器」だ◆「砂の器」では、悲しい宿命を背負ったゆえに殺人を犯す青年を演じた。やはりことし没した脚本家・橋本忍さんの脚本、四季の映像、荘重な音楽のどれもが見事な作品で、邦画史に残る傑作と言えるが、主役の一人、それが加藤さんだった◆「忍ぶ川」は、戦後日本がまだ貧しい時代、若い男女の哀しいほど一途な愛を、モノクロで描いた熊井の代表作の一つ。加藤さんは主役の「私」を、静かななかにも熱く演じ、作品とともに高い評価を得た。