連載・特集

2018.11.7みすず野

 山形県鶴岡出身の時代小説家・藤沢周平は、郷里の初冬の風景が好きだった。雲が垂れ込め、霙などを降らせるが、裂けるとしか言いようのない雲の隙間から日が差し、黒い野や灰色の海を照らす◆「初冬に至って、私が生まれ育った土地は、他の土地と紛れるところのない、まさにその土地であるしかない相貌をあらわす」(「初冬の鶴岡」)。松本の晩秋、初冬の風景は、これとは全く異なる。北アルプスがうっすら雪化粧し、晴れ渡った日の透明感と言ったらない。麓の果樹園にはリンゴの「ふじ」が赤く実り、街路樹の紅葉も美しい◆信州は本来この時季、天気が安定し、朝晩の冷え込みが進むとはいえ、好ましさがある。ことしは夏が猛烈に暑かった。急に秋めいたが、週末になると天気が崩れ、稲刈りができなくて、農家をやきもきさせた。その分、マツタケなどキノコは豊作だった◆きょうは立冬。しばらく曇天が続く予報だが、紅葉をめでつつ、冬の準備に入りたい。「立冬の女生きいき両手に荷」(岡本眸)。両の手に大きい荷を持つ女性の姿が生き生きとして、楽しげな冬支度を想わせる。こうありたいものである。