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懸魚 父の遺作ひな型に 豊科の大工・小林さん

 大工歴54年の安曇野の棟りょうが、江戸時代から伝わる中南信地方特有の民家様式「本棟造り」の新築を塩尻で請け負い、「懸魚」と呼ばれる棟飾りを初めて作っている。懸魚を新たに作って取り付ける住宅は今日珍しいという。施主は築100年以上たって老朽化した本棟造りの建て替えに当たって、祖父の代まで掲げられていた懸魚を再びと願い、棟りょうは師である亡き父が作った懸魚をひな型にして「こんな機会に恵まれ、職人冥利に尽きる」と感慨深げだ。

 安曇野市豊科高家の小林工務店代表・小林廣高さん(69)が、塩尻市片丘の大和邦浩さん(36)が発注した本棟造り住宅の建て替えを請け負った。  取り壊した従前の住宅は江戸時代の建物とみられ、昨年亡くなった祖父の恒文さんが子供の頃まで懸魚があったという。大和さんの母・道子さん(63)は「父が亡くなり家全体が沈んでいる時に、建て替えの話が出た。父が話していたのを思い出し、懸魚をもう一度取り付けようと決めた」と言い、完成の日を楽しみにする。  懸魚は彫刻や透かし彫りを施し、魚をかたどった木の板だ。本棟造りの特徴の一つで鳥が翼を広げたような形の棟飾り「雀踊り」の下に取り付けられる。魚の形には火除けの意味があるという。  小林さんの作業場と隣接する自宅の屋根には、懸魚が取り付けられている。中学を卒業して大工の道に入った小林さんが22歳の時、一連の工程を初めて手掛けた自宅の完成を祝って、父の銓司さんが手彫りして贈ってくれた。小林さんは「生きていれば父は今年100歳になる。依頼を受けた時、巡り合わせを感じた」と腕をなでる。  屋根に登って型を取り、新築の家に合わせて大きさを調整した懸魚は縦60センチ、横180センチ、厚さ3センチほどで、三つのパーツに分けて作る。穂高の古民家から譲り受けたケヤキの一枚板を使い、ベテラン大工の原口芳男さん(68)と5年目の井幡幸輔さん(43)が実務を担う。原口さんは「ノミが負けるほど堅い。丈夫で上質な材だ」と話す。  大和さん一家4世代6人が暮らす新築住宅は年内に完成の見込みだ。小林さんは「家族で良い新年を迎えてもらいたい」と、現場で指揮を執っている。