連載・特集

2018.9.30みすず野

 春と秋に発刊される総合文芸誌『安曇野文芸』との出合いは平成17年春の第11号。木曽福島出身で穂高に住み、明治期に満願寺の微妙橋再建などを手掛けた宮大工・瀬川伊勢松の話題が載り、小紙で取り上げたのがきっかけだった◆地域史研究家で現代表の中島博昭さん(84)が、知られていなかった棟梁の足跡と人物像をあぶり出した。歴史を掘り起こし、地域に光を当てる。浅学の記者が「安曇野と木曽の緑とは意外でした」と言うと、中島さんは「拾ケ堰の水は奈良井川から取っているんだよ」とにっこり◆創刊号の巻頭言に掲げた島崎藤村の「溢るるものこそすべてである」を毎号載せ、市民の書きたい、書かずにいられない熱意を活字にしてきた。湧き出る一滴一滴を集め、高まった瀬音はあすの刊行が第38号という。座談会や語りで歩みを振り返る初の催しが10月6日に穂高で開かれる◆ふらりと入った旅先の喫茶店の書棚に地元の文芸誌が置かれている幸せを思う。エッセーや小説1編、短歌1首が郷土に漂う文芸の香りを実感させ、この街が好きになる。書きたい思いが若い世代へも受け継がれるよう願わずにはいられない。