連載・特集

2018.8.11 みすず野

 「奥穂に登れば西穂が招く。招くその手が」と一拍おいて大仰に見えを切り、声に力を込めて「ジャンダルム!」。切り立つ孤高の岩塊を背にしてカメラに向かい、胸の前で腕を組んだ。若い日の懐かしい思い出だ◆国民の祝日「山の日」はきょう3年目。国会議員が制定に動き、祝日がない6月を候補に挙げたが、燕山荘の赤沼健至さんらが「6月はまだ冬山」と異を唱え、お盆に連なる8月12日が昭和60年の日航機墜落事故の日と重なるため、11日と決まった。初めての年には上高地で記念式典が皇太子ご一家をお迎えして催された◆キスリングを背負った若者に代わる中高年ブーム、山ガール―と登山道で会う人の姿は時代とともに変わり、近年30~40代も多いそうだ。達成感や健康づくり、昔の山行を懐かしんだり、自然に親しんだり。動機はさまざまでも山で人は詩人や哲学者、時に画家や音楽家になる◆一方で遭難事故も後を絶たない。涸沢へのザイテングラードも前穂の紀美子平も下りが危ない。実感以上に疲労がたまり、鎖を握る手も急坂で運ぶ足も踏ん張りが利かない。体力を過信せず、くれぐれも慎重に。山を楽しもう。