連載・特集

2018.7.22 みすず野

 御嶽海関が初めて賜杯を抱く。木曽の人たちは「植原延夫さんに見せたかった」としのんでいるだろう。ご存命だったら。名古屋へバスを仕立て「久司、久司」と大はしゃぎの姿が目に浮かぶ。大道久司さんを小学生時分から指導し、成長と土俵を見守った◆木曽福島で営まれた葬儀には、新小結昇進を報告したばかりの関取も九州の宿舎から駆けつけ、恩師の遺影に「御嶽海の相撲を貫き通す」と誓った。激励会や取材の受け答えで「自分の相撲を」なら耳になじんでいたが、「御嶽海の」と聞くのは初めてだったので印象に残る◆初めてと言えば―。御嶽山噴火から2カ月余りたった師走の早朝、東洋大学の稽古場で「木曽を元気づけたい」と切り出した一言も忘れない。前月に学生横綱のタイトルを取った喜びや、アマ横綱が懸かる3日後の天皇杯への意気込みよりも先に郷里を案じた◆プロ初稽古と初土俵に始まり新十両、新入幕、新三役、新関脇、そして初優勝―と「初」「新」尽くしの出世街道はご存じの通りである。取材するほうも目の回る思いがしたものだ。次の「初めて」も視界に捉えた。植原さんもきっと見守っている。