連載・特集

2018.6.24みすず野

 殿馬一人の「秘打・白鳥の湖」を初めて見た時は心底びっくりした。バレリーナのように回転しながら速球、剛球を打ち返す。まねをした野球少年も多いだろう。46年間にわたって親しまれた野球漫画「ドカベン」が完結するという◆ピアノの名手で、名曲にちなんだ秘打を次々と繰り出す。ひょうひょうとして周囲になじまない言動は『ムーミン』シリーズのスナフキンを連想させたし、大げさかもしれないがシェークスピアの喜劇『夏の夜の夢』に登場する妖精パックのようなトリックスター的な存在でもあった◆個人的な思い出だが、九州の小都市から信州松本に来た時、年配の男性が「そうずら」と話すのを聞き「殿馬だ!」と独り喜んだ。愛読していた北杜夫さんの『青春記』で読んだ「来マショ」の肉声に初めて触れたうれしさとともに印象深い◆電車の車内でも捕手の構えが保てる山田太郎、野球なのに学帽をかぶった「悪球打ち」岩鬼正美、アンダースローの「小さな巨人」里中智―愛すべき登場人物だ。打つ気がないと見せかけてバットをすっと下ろし、グリップに球を当てる「秘打・新世界ドボルザーク」が好きだった。