2026.3.13 みすず野
2026/03/13
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この春から新社会人となる人たちは、その準備を進めていることだろう。かつてはネクタイ着用が決められていた職場でも、特にこだわらないという例が増えているようにみえる◆「縞のワイシャツのとき、スーツはかならず無地にしなくてはならないと、私どもは少年のころ、先輩に教えられたものだ」と、作家の池上正太郎は書いている(『日本の名随筆・装』作品社)◆そういうものなのかと思いながら恐る恐る売り場をのぞいていた。入社の日を控えてネクタイを2本買った。有名メーカーの緑と青の地に模様が入ったオーソドックスなデザイン。1本5000円だった。それまでニットタイしか買ったことがなくこの値段が高いのか安いのかわからなかった。その1年後にえんじ色を1本購入した◆ネクタイは何本あっても、気に入った数本だけを交代で着けるようだ。だから同時期に買ったものは同じように傷む。でもあの3本は今も手元にある。これを着けて取材現場へ走り、少し緩めて会社の机で同じ原稿を何度も書き直した日々。そんな思い出がしみこむ。同じようなネクタイが、人それぞれに残されているような気がする。



