2026.3.5 みすず野
2026/03/05
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「遊びながら哲学をしている」といわれるほど学問を楽しんだとされる哲学者・河野与一(1896~1984)は、旧制松本高校から東北大学に進んだ作家・北杜夫さんの大学時代の保証人だった。哲学教授で該博な学識で知られたが、学問を楽しんだ人でもあったという◆「物を書くのがしょうばいの新聞記者でありながら筆を執るのを億劫がっていた叔父が、よく青年の私に『僕は第一流の読者だ』と言って聴かせた。読んだ本を片っ端から忘れて行くから同じ本が何遍でも読めるというのである」と始まる短いエッセーは『新編学問の曲り角』(岩波文庫)にある◆なるほど叔父が持っていた漱石の『三四郎 それから 門』の厚ぼったい小型の合本は、敬けんな信者のバイブルのようにぼろぼろになっていた。「しかし本屋さんとすれば、こういうのは困った相手であろう」と◆もしかして「第一流の読者」の仲間入りをしているかもしれない。読んだ本を忘れるだけではない。それを引用した小欄の存在も忘れ、スクラップをひっくり返して以前同じことを書いたと気付き、何度か慌てた。書くことを億劫がってはいないのだけれど。



