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2025年

2025.12.26 みすず野

2025/12/26
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 万年筆からインクが出ないと、同僚が困って持ってきた。カートリッジのスペアインクがきちんと入っていないだけのことだったので、簡単に使えるようになった。万年筆を筆記具として当たり前に使っているのがうれしい◆何本も持っているが、高価な外国製は1本もない。最も多いのは雑誌の付録で、これが案外使いやすい。使わないものはインクを入れずに保管すれば、問題なく使用できる。国産品はどれも故障がなく優秀だ◆最も長く手元にあるのは学生の頃街の文具店で買った1本。パソコンがなかった時代で、卒論はこれで書いた。インクの出が悪くて長い間思うようにならず、ほとんど使わなかったが、ここ2、3年で改善された。手に取ると、買い求めた文具店を思い出す◆作家の吉村昭さんは「万年筆をこの上なく素晴しい筆記具だと思っている。常にペン先から一定量出てくるインクを霊泉のようにも感じ、まさに泉筆だと思う」(『わたしの流儀』新潮文庫)と書いている。「死を迎えた折には棺に愛用の万年筆を入れてもらいたい」と続けた。平成18(2006)年に亡くなられた。万年筆は入れられたのだろうか。

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