2025.12.10 みすず野
2025/12/10
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「酒屋へ三里豆腐屋へ二里」は人里離れた、生活するのに不便な土地のたとえ。酒屋へ行くのに三里、豆腐屋へは二里も距離があるという意味からだと『故事ことわざ辞典』(三省堂)にある。一里は約4キロ。このままエッセー集のタイトルに使った作家もいるそうだが、この頃はあまり聞かない◆辞典には江戸後記の狂歌師の頭光作「時鳥自由自在に聞く里は酒屋へ三里豆腐屋へ二里」の下の句からで、風情のある土地は不便であるということを詠んだとある◆今年亡くなった芸能・演劇評論家の矢野誠一さんは、この狂歌で江戸人は田舎の不便をたとえてみせたが「ほととぎすの風情よりも、酒と豆腐の手近な暮しのほうを貴重とする、都会人の実感に基づいてもいる」(『昭和食道楽』白水社)と解説する。「天明狂歌の代表的名吟として人口に膾炙した」という◆住宅地は市街地を離れて郊外へと広がる。その一角に住むがコンビニが出店して「酒屋へ三里」ということはない。でも病院や駅は遠い。高齢者にとって移動手段の確保は大きな悩みだ。運転免許証の返納にはうなずきながら、その足をどうするのか、課題解決は難しい。



