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2025年

2025.12.4 みすず野

2025/12/04
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 一年で最も日が短くなるこの時期、午後の日差しは夏が始まる頃の夕方のような影をつくる。日中の気温が高い日が続く中での師走入りだったが、寒波の到来で、ようやく冬のスタートラインに立ったようだ◆「黄昏は慌しく来る。人は厚い外套の襟を立てて、俯目になってその家々に急ぐ。何かの折に目が、風に震える電線の間に、または枯木立の梢にぎらつく星を映す事があっても、それは更に首を縮めさす用にしか立たない」と、天文随筆家の野尻抱影は書いた(『野尻抱影 星は周る』平凡社)◆「『星が降るようだ。あしたの朝は霜が強かろう』こう言って忙しく雨戸を繰る声を聞く時ほど、冬の星の凄まじいばかりの美しさを思うことはない」とも。こんな晩は、きっと凍った庭に出ているとつぶやく◆「夥しい星々がプリズム光を放っているのを仰ぐと、暫くは人間界の興味を忘れてしまうほどである」と続く。書かれたのは100年前。夜空の様子はそのころと何も変わらない。変わったのは空の下の世界。今も傷跡が癒えない大きな戦争があった。終戦から80年。あの頃と同じ道をたどらぬように。二度とたどらぬように。

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