2025.11.27 みすず野
2025/11/27
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男性歌手が歌ってヒット曲となった「大きな古時計」は米国の古い歌で、中学校の音楽の教科書に載っていた。ギターやバンジョーの練習曲としても、教則本に頻繁に取り上げられている◆この時計はグランドファーザー・クロック、ホール時計などと呼ばれる振り子の付いた大型の置き時計で、松本市時計博物館にも展示されている。中学生の頃はそんな大きな時計があるとは知らなかったから柱時計を歌ったのかと思っていた。「おじいさんの時計」という邦題もある◆小説家、演劇評論家だった安藤鶴夫は「おやじはたいへんな時計道楽だった」と「柱時計の音」というエッセーを書き出す(『精選日本随筆選集 孤独』宮崎智之編、ちくま文庫)。たくさん持つのではなく、新しいタイプに持ち替えるタイプだった◆年とともに持つ時計が少なくなり、買ってきた柱時計の音を聞くのを好むようになる。「おやじが自分の部屋に古風な柱時計を掛けて、カチ・カチいう音が好きだったのは、たぶん、さびしかったのだろうと気がついたのは、おやじが死んで少し経ってからのことである」と。忘れられぬ古時計が一つ、ここにもあった。



