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2025年

2026.11.23 みすず野

2025/11/23
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 会場に入ると油彩の松本城天守の絵が迎えてくれた。松本市美術館で開催中の松本ゆかりの画家・石井柏亭の特別展。東京で生まれ育ち、中央画壇で既に活躍していた柏亭だが、疎開をきっかけに松本に移り住んだ。若手育成や美術団体の結成といったことを通し、信州の戦後美術の発展に尽力した◆展覧会名に「戦後80年」が盛り込まれている。名前にたがわず、終戦間もないころの松本の景観が題材の絵が多くある。当時の女鳥羽川下流域や浅間温泉から見える風景、レストラン「鯛萬」の店内の様子を垣間見る◆終戦間もない昭和20(1945)年11月から12月初頭にかけて制作され、柏亭の戦後の代表作とされる「山河在」。奈良井川と梓川の合流から西方を遠望した景観だ。展覧会では当地から現在見られる風景写真と並べられている。63歳という高齢で幾度も往復12キロを歩いて仕上げた一枚の絵の奥に、柏亭の人どなりの一端も見えてくる◆「山河在」には敗戦で打ちひしがれていた人たちを励ましたであろう力強さを感じる。書籍や絵はがきで見ていたが、当たり前だが実物は訴えてくる強さが違った。特別展は12月7日まで。

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