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2025年

2025.11.21 みすず野

2025/11/21
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 子どもの頃、火鉢というものがあるということは知っていたが、家にはなかったし、親戚や友達の家でも見たことがなかった。炭は掘りごたつで使うからもちろん身近にあった。信州の冬は火鉢など役に立たないほど寒かったという証だろうか◆漫画家の東海林さだおさんのエッセーを読んでいたら「小鍋立て」という言葉が出てきた(『ぐつぐつ,お鍋』河出文庫)。「小鍋立てを広辞苑で引くと、[小鍋を火鉢にかけ、手軽に料理をつくり、つつき合うこと]とある」。「小鍋立て論」と題したエッセーがこう始まる◆小鍋立てという言葉を知らなかった。別の辞書を引いてみると「小鍋仕立て」である。載らない辞書も。同書には作家の池波正太郎さんの「小鍋だて」と題したエッセーも収める◆池波さんは、小さな土鍋が冬を迎えて何よりの友達になるといい「魚介や野菜などを、この小鍋で煮ながら食べる」と。例として酒3、水7の割合で煮立て、アサリのむき身と白菜を入れ、火が通ったところをポン酢で味わう。もちろん火鉢でなくてもいい。今週、どうやら冬が来たらしい。今年も秋は1カ月ほどだった。鍋の湯気がうれしい。

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