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2025年

2025.11.15 みすず野

2025/11/15
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 JR松本駅で列車到着時に長く聞いてきた。自動アナウンス「まつもと~、まつもと~」は明日が聞き納めとなる。語尾の伸びる独特の響きとともに、多くの人がそれぞれ思い出を持っているのではなかろうか◆東京の出版社で働いていた三十余年前。社会の厳しさにさらされた。学生時代を首都圏で過ごし、都会暮らしに慣れたつもりでいたが、勘違いだったと痛感していた。社会人となり特急あずさに乗って松本に帰ってきた時、語尾の伸びるアナウンスは都会での生活の緊張をほぐしてくれた。肩ひじを張らなくてももういいよ、と語りかけてくれるような優しい響きだった◆先日の弊紙リレーコラムで、小林夏樹さんが取り上げておられた。駅構内に流れる語尾の余韻が「旅人の胸に興趣を添え」地元の人には「郷愁の響きになっていた」と。「駅名のアナウンスもまた、地域で共有できる文化遺産に違いない」との主張に共感した◆駅前からパルコや井上がなくなってから、まだ1年足らず。今度は駅本体から松本の名物がまた一つ消える。昔なじみの好きなものがなくなっていくのはやはり寂しい。時代のすう勢と理解しつつも。

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