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2025年

2025.10.14 みすず野

2025/10/14
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 職場の机の上には辞書が何冊か載っている。新聞の用字用語集もある。こうした辞書類を1日に何度も引く。「辞書を引く」と書いたが「引く」が使えるか、それとも「ひく」なのかを調べる。同じ文字や用法を何度も引くことが多い。なかなか覚えられない◆机の上の辞書で、最も古いものは30年ほど前に発行された国語辞典で、背文字がすり切れてきた。最近はあまり使わない。文字が小さすぎて老眼が進んだ目にはつらい。どうしても文字の大きなものに手が伸びる◆作家の吉村昭さんは30枚の短編小説を書く時、10回は辞書を引いた。「文字の輪郭はおぼろげながら頭に浮かぶのだが、自信がなく、辞書のページを繰る」(『私の流儀』新潮文庫)。原稿は万年筆で書いていた。国語辞典の背表紙がはがれ、新しい辞書に買い換えようと思う。奥付を見ると30年以上も使っていたとわかる。文壇に出る直前だ。「現在まで書いてきた小説は、すべてこの辞書をひくことによって成り立ってきたのである」◆新聞原稿はパソコンで打つ。文字が変換されるので手書きに比べ辞書を引く機会は減った。その分、文字が書けなくなっている。

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