2025.10.7 みすず野
2025/10/07
後で読む
「中秋の名月」は昨日の夜。満月は1日ずれて今夜だ。「すすきは近い野原まで行けばいくらでも生えていて、戦争の間、月に供える畑のものがなかった時でも、すすきばかりは縁側の鴨居にとどくほどだった」と英文学者の野尻抱影は終戦の年に書いた(『野尻抱影 星は周る』平凡社)◆子どもの頃、月に供えたのはススキと、母が作った「のたもち」だった。「のた」は「枝豆をゆでてすり鉢ですり、砂糖と塩を入れて作ったもの」と農林水産省のホームページにある。「うちの郷土料理」の長野県の味として紹介されている。そうした位置づけの味とは知らなかった◆盆と秋の供えの代表的な料理ともある。そういえば盆や、秋の彼岸の頃に食べた気がする。うぐいす色で、枝豆の香りが口中で広がるとの説明もある。かなり甘い味だった。「もちは餅米とうるち米を混ぜて炊き、半つきくらいにつぶす」と◆母がいなくなって、この習慣も途絶えた。『合本俳句歳時記』(角川書店)には「濡れ縁に座を移したる月見酒」(伊藤康江)が載る。縁側はないからこの句にあやかるわけにはいかないが、口に運ぶのはこちらの方になった。