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2025年

2025.9.29みすず野

2025/09/29
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 「おとなになると、うれしいことはあまりない。それでも、うれしい顔は見たい。なかなかないだけに、その現場と、意味をたしかめておきたい」と詩人の荒川洋治さんは「一本のボールペン」と題したエッセーでいう(『ぼくの文章読本』河出書房新社)◆会議でもらったボールペンを手に「おとなになると忙しくて、買い物に行かない。それでボールペンひとつも遠くなる。ちいさなものほど、貴重なのだ。それが、おとなの世界」なのだと◆同じ会議に出席した人が、会議の間、うれしそうにボールペンに触っている。「おとなは、一本の味わい方を知っている。一本で、うれしい顔になれる。他のことで自分が不幸でも、そうなれるのだ。そこに人の気持ちというものの、不思議がある」と語る◆自分の喜びを考えるとき、大人は大きな状況ばかり想定するといい、それが心を小さくしてしまう。そこからうれしい顔は出て来ないのだと。うれしいことは少ない。そうでないことはたくさんある。そんな日常で大人の笑顔を見つけるのは、難しいかも知れないが楽しみでもある。できれば人にそんな笑顔を見せられればいいのだけれど。

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