0000日(木)
2025年

2025.9.15 みすず野

2025/09/15
後で読む


 仕事が一区切りになり、さて昼食と入った店で、生ビールのジョッキを手にしているお年寄りを見ると、心底うらやましくなる。ジョッキがキラキラ光っているように見え、中の液体も輝く。同じようにテーブルに置いてみたいが、目で味わうだけにする◆きょうは「敬老の日」。その趣旨は「多年にわたって社会につくしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う国民の祝日」という。「一点非のうちどころのない結構な趣旨である。それだけにいいようのないしらじらしさがつきまとって離れない」というのは随筆家の江國滋さん(『日本の名随筆・老』作品社)◆「老人といえば反射的に『敬愛』と答え、『長寿を祝う』と続くその発想そのものに偽善がひそんでいる」と続く。そして「人間の『老い』というものの姿を直視することはすこぶる勇気を要する精神作業だが、その勇気を持つことがほんとうの〈敬老〉の第一歩なのである」と◆長寿を祝うお年寄りは、身内に一人もいなくなった。ぼやぼやしているうちに、祝ってもらう側に近づいている。社会に尽くしてきたかどうかはわからない。ここはひっそり一人でジョッキを傾けてみよう。

関連記事