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2025年

2025.9.3 みすず野

2025/09/03
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 ソバの花の時期だ。青空の下で一面に広がる白い花が風に揺れる様子は何度見てもすがすがしい。塩尻市内の緩やかな傾斜地に広がるソバ畑に何年か取材に行った。最上部からの眺めは素晴らしく、開花に合わせた催しも行われていた◆あの場所からソバの花を見ようと、家並みや石垣など長い歴史を思わせる何度も通った道から、細い農道を上った。もうすぐ最上部だという場所に着いたが、周囲にソバ畑がない。車を降りて見渡しても、ソバ畑は見つからなかった◆「十年前、バスを降りて/橋のたもとの坂をのぼり/教会の角を右に曲がつて/赤いポストを左に折れて三軒目/その格子戸をあけると/長谷川君がいた/きょう、バスを降りて/橋のたもとの坂をのぼり/教会の角を右に曲つて/赤いポストを左に折れて三軒目/その格子戸をあけると/やつぱり長谷川君がいた」(『杉山平一詩集』「退屈」思潮社)◆あのままあるだろうと思い描いた風景はなかった。指を折ってみると二昔も前になる。同じ景色が続いているとは限らない。「長谷川君」はいなかった。昨日付の紙面に安曇野市のソバ畑の写真が載った。この風景だ。

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