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2025年

2025.8.27 みすず野

2025/08/27
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 作家の山口瞳さんは、色紙を求められると好んで「今日無事」と書いた。その1枚を部屋に飾ってあるという作家、翻訳家の常磐新平さんは「今日無事」であることがいかに大変であるか「六十代にはいって、ようやくわかったのである」とつぶやく(『威張ってはいかんよ』マガジンハウス)◆「何ごともないというのは、この年になると、じつに素晴らしいことだ」といい、今年の桜も見られる、自分に合ったネクタイを買うこともできる、入れ歯であってもすしが食べられるではないかと◆「平凡な言葉に大切な、非凡な意味がひそんでいる。『今日無事』はそのことを私に教えてくれた」と語る。色紙にこの言葉を筆に力を込めて書いたとき「心から無事を願っていたと思う。色紙をもらう人と氏自身と家族の」◆色紙は何度か写真で見たことがある。達筆という字ではなかったと思うが、誠実に書かれたことが見る人に伝わる力がこもっていたと記憶する。年齢を重ねてくると誰もが抱く思いを、4文字で表したその言葉は、常盤さん同様「ようやくわかった」。外出するだけで体にこたえるような日々がまだ続く。「今日無事」で。

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