2025.8.9 みすず野
2025/08/09
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弊紙で連載中の「戦後80年~あの日の名残~」の取材の折、現地を一緒に見て回った研究者が嘆いた。調査した10年ほど前にあった「遺産」が幾つも失われている、と。一帯は時代の要請に後押しされ、宅地化が目覚ましかった◆「この辺りにあったはずなんだが」。案内してくれた所に足を運ぶと、まさに工事の真っ最中。大きめの施設を造っているのだろうか。広く深い穴が空き、以前の状態が全く分からなかった。幸い、工事現場から少し離れた場所に、研究者が筆者に紹介しようとした遺構が残っていた。が、「ここもいつまで残されていられるか」と研究者はつぶやいた◆いまを生きる人たちの都合が優先されるのが、世の習い。時勢にのって街は姿を変えていく。だからといって古い物を次々になくしていいのだろうか。行政が関与して遺構を残すため住民の合意をどう得るかが課題だ◆戦争をしたのが大きな過ちであるのは、体験者の証言から間違いない。戦後80年が経過し、その体験者はますます減る。代わりに「戦争をしてはダメだ」と物語ってくれるのは、遺構なのだろう。精査しつつ教訓となる物を保存していきたい。