2025.8.6 みすず野
2025/08/06
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被爆者の日記、手記をもとにした小説『黒い雨』は、戦後20年の年に井伏鱒二によって書かれた。その5年後、作品について語った「『黒い雨』執筆前後―被爆25周年にあたって」が『広島風土記』(中公文庫)に収められている◆井伏は作品を書くため、郷里の広島を取材で訪れる。「取材に行き出すと、書くときのまじめさより、事実にたいしてまじめになってしまった」と語る。「あの出来事は空想で書けるというようなものではなかった」からだ◆取材で話を聞いた被爆者たちは「焼けあとで死骸をさがすところへくるとふと息をのむように絶句する。ことばが出ないんだね」と振り返る。「『黒い雨』を書いているうちに、だんだん軍人が憎くなっていった。保元平治の乱の昔から、戦争ぐらい庶民を苦しめるものはない」とも。この作品は「小国の人に読んでもらいたいと思っている。アメリカなんか大国の人にはどうでもいいことかもしれないからね」と結んでいる◆作品は発表から60年を経て、多くの言語に翻訳されている。世界では核兵器使用の危機感がこれまでになく高まる。原爆投下から80年の夏。きょう広島平和記念日。