2025.7.24 みすず野
2025/07/24
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職場で机を並べていた後輩は、小学校の先生のような、書き方のお手本のような字を書いた。紙質の悪い原稿用紙に、鉛筆で記事を書いていた頃。読みやすい文字はデスク、編集をする整理部、入力する制作部と、それぞれの職場の担当者に歓迎された◆作家の阿川弘之さんは、親しかった編集者の七回忌で墓参に行く。寺の山門脇に「あぐらをかいて字を書けば字もあぐらをかく」と書かれていた。この手の言葉は無視して通り過ぎるのだが足を止める。「自分のことを言はれたやうな気がしたのである」(『七十の手習ひ』講談社)◆苦笑しながら手紙の書き方、服装言語、礼儀作法全てに関してうるさかった編集者を思い出す。墓参の後、中華料理店で親しかった者だけで彼を肴にして酒を飲んだ。後日、夫人から「よき噂供養をして戴きまして」と礼状が届く。「ほう、噂供養か」。故人の縁で今年の土用、面白い言葉を知ったなと思う◆後輩には祝儀不祝儀の筆文字を何度か書いてもらったがしばらくして退社。別の業種の企業で働いていた。性格はどこか一本筋が通っていて、生きづらいだろうにと余計な心配もした。元気だろうか。