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2025年

2025.7.18 みすず野

2025/07/18
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 俳優の池部良さんは、入隊して5年目の昭和21(1946)年6月、2年半もジャングルに潜んでいた赤道直下の小さな島から復員する。わずかなカエル、トカゲ、蛇、虫などを食べ、ひどい栄養失調だった◆父の疎開先へ行く駅で「うなぎ」と書かれた看板の家を発見。狭い店内には小柄なおばあさんが一人。かば焼きとご飯を頼む。黒塗りの重箱、ご飯を盛った丼が出てきた。かば焼きに箸を入れるが堅くて箸先が動かない◆口に放り込むと太い骨があごに刺さった。「おばあさん、これ、うなぎじゃないな」「ああ、うなぎじゃねえよ。蛇だ」(『風の食いもの』文春文庫)。「俺はね、南方の島で散々蛇食ってきたんだ」といきり立ち、飯代は払うがかば焼き代は払わないと告げる◆おばあさんは、息子が南方に行っているようだが、6年にもなるのに便りがない。ウナギが取れずにいたら親切な人が蛇を取ってきてくれて、と涙を流した。池部さんは港の復員局でもらった200円のうちの100円を置く。ウナギというとこのエッセーを思い出す。ふっくらとしたその身に箸を運び、申し訳ないような気持ちで。明日は土用の丑の日。

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