2025.7.9 みすず野
2025/07/09
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昭和4(1929)年生まれで旧制中学4年生だったサトウサンペイさんは、終戦の日よりもっと印象的な日があると「終戦私話」と題した随筆に書いた(『巻頭随筆百年の百選』文藝春秋)。のちに「フジ三太郎」などの漫画で知られる◆その日は8月15日から3週間ほどたって学校へ行った日。「黒板にポプラの木影がゆれている。先生が戦後一本目のチョークを取り出し、黒板に文字を書いた。カタカタカタ…、その音のなんと軽やかで美しかったことか」◆続けてこう記す。「平和だなあ、これが平和というものなんだ、と思いながら、書かれた白い四文字をうっとりと眺めていた。今までに見たことも、聞いたこともない『民主主義』という文字であった。『きょうからこうなったんや』と国民服の先生が言った。軍国少年はうわの空で黒板にゆれる美しい木影をぼんやりと眺めていた」◆昭和100年、戦後80年の年に行われている参議院選挙。争点はコメの価格など物価高対策、消費税減税、年金制度改革、少子化対策などが挙げられている。いずれもそうだろうが、もっと大きな何かを問われているようにも思えてならない。