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2025年

2025.6.19 みすず野

2025/06/19
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 そよ風が吹き、穏やかな好天に恵まれた日、ルポライターで登山家の根深誠さんは、渓流釣りが解禁になったばかりの青森県内の山に入る。狙いを定めたえん堤下の淵を目指して歩く◆残雪に覆われた林道からえん堤を見下ろし期待を打ち砕かれる。淵は上流から運ばれた土砂で埋まっていた。「いやー、なんと、なんと、まいった、まいった、笑うしかない」(『渓流釣り礼讃』中公文庫)。山の中でつぶやき笑う。「私は独り言を口にしたり、散歩中に犬に話しかけたりするのだが、老化現象ではないかと思っている」◆それは「私の察するところでは、老化するにつれ、万物と対話するすべを身につける。それが人生に豊かさを与えているのかもしれない」のだと。飼い猫には毎日話しかけているがこれも老化の過程だろうか。そんなすべを手に入れられるのなら悪くない◆詩人の山村暮鳥(1884~1924)は「雲」という詩で、雲を相手に話しかける。「おうい雲よ/ゆうゆうと/馬鹿にのんきさうぢやないか/どこまでゆくんだ/ずっと磐城平の方までゆくんか」(『詩 たのしいライト・ヴァース日本編』河出書房新社)。

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